不動産所得は、その不動産貸し付けが事業として行われているかどうかによって、 所得金額の計算上の取り扱いが異なります。
では、事業的規模とそうでない場合の違いとは、具体的にどのようなものでしょうか。また、事業的規模とみなされる判断基準についても、詳しく解説します。
1.事業的規模のメリット
不動産経営が事業的規模とみなされる場合、主に次のようなメリットがあります。
1-1. 青色申告特別控除
青色申告の 10 万円控除は青色申告者であれば適用されますが、65 万円控除は 不動産貸し付けが事業として行われている場合のみ適用となります。
1-2. 青色事業専従者給与
青色事業専従者給与は、不動産貸し付けが事業として行われている場合のみ、必要経費に算入されます。
1-3. 欠損金の繰越
賃貸用固定資産の取り壊し、除却などの資産損失については、不動産の貸し付けが事業として行われている場合は、その全額を必要経費に算入できます。そのため、当該資産損失が生じた場合には多額の赤字を計上して、損失を3年間繰り越せるため、数年間所得税が発生しないケースがあります。
一方、事業的規模でない場合は、その年分の資産損失を差し引く前の不動産所得の金額を限度として必要経費に算入されます。
1-4. 貸倒損失の計上基準
賃貸料などの回収不能による貸倒(かしだおれ)損失については、不動産貸し付けが事業として行われている場合は、回収不能となった年の必要経費に算入することになります。
事業的規模でない場合は、収入に計上した年までさかのぼり、その回収不能に対応する所得がなかったものとして、所得金額の計算をやり直します。そのため、過年度に収入計上した売り上げについての貸し倒れがその翌年以降に発生した場合、当該収入を取り消すには更正の請求を行う必要があります。これは、非常に手間がかかります。
1-5. 利子税の損金算入
延納に係る利子税については、不動産貸し付けが事業として行われている場合は、不動産所得の必要経費に算入することが可能です。
1-6. 小規模企業共済の加入
不動産貸し付けが事業として行われている場合、個人事業者となるため加入可能です。事業的規模でない場合は加入資格がないため、退職金などの積立において、その他の方法で積み立てることになります。
参考サイト:
https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1373.htm
2.事業的規模のデメリット
それでは、事業的規模のデメリットにはどのような点があるでしょうか。主に、挙げられるのは個人事業税です。
不動産貸し付けが事業として行われている場合、個人事業税が発生します。ただし、都道府県によって個人事業税の対象となる不動産所得の規模に違いがあります。
個人事業税の計算では、青色申告特別控除の適用前の金額から、290万円(年額)を控除した額の5%が税額となります。納付については都道府県からの通知に基づき、8月と11月の2回に分けて支払うこととなります。
3.事業的規模の判定基準
事業的規模の判定については、①営利性・有償性の有無、②継続性・反復性の有無、③自己のリスクと計算における事業遂行性の有無、④取り引きに費やした精神的・肉体的労力の程度、⑤人的・物的設備の有無、⑥取り引きの目的、⑦事業を営む者の経歴・社会的地位・生活状況など、これらのことを総合的に加味して判断すべきであるとされています。
不動産の貸し付けが事業かどうかについては、原則として社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうかによって、実質的に判断します。
3-1.建物を貸し付ける場合
建物の貸し付けについては、次のいずれかの基準に当てはまれば、原則として事業的規模として取り扱われます。
(1) 貸間、アパートになどついては、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること。
(2) 独立家屋の貸し付けについては、おおむね5棟以上であること。
また、貸地や駐車場については、明確な規定は存在しません。しかし建物の基準を参考に考えると、貸地は5件を1室、駐車場は5台を1室と判定していると考えられます。したがって、貸地や駐車場だけで事業的規模を満たそうとすれば 50件必要ということになります。
参考サイト:
https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kihon/shotoku/04/02.htm
3-2.共有名義の場合の注意点
物件を共有している場合には、自分の持ち分だけで判定するのか、あるいは共有者の部分も合わせて判定するのかどうかですが、実務上は共有者の分も合わせた全体で判定することになっています。そのため、自分の持ち分だけでは「5棟10室基準」に該当しない場合でも、共有物件全体で該当するのであれば、「事業的規模」と判定できます。
3-3.貸家および貸室、駐車場など複数を貸す場合
貸家および貸室、駐車場などの複数を所有する時の判断ですが、この場合は例えば、貸家(2棟)および貸室(4部屋)、駐車場(10台)というように、全体で3-1の条件を満たす場合、「事業的規模」と判断されます。
3-4.駐車場の場合の注意点
コインパーキングや月極駐車場の有料駐車場などの所得については、自己の責任において他人の物を保管する場合の所得は事業所得または雑所得に該当し、そうでない場合の所得は不動産所得に該当するとされています。
つまり駐車場に管理者を置くなど経営者の責任で自動車の管理が行われており、自動車へのキズや盗難、事故といった行為に対する責任を経営者が負うケースでは、事業所得あるいは雑所得となります。
参考サイト:
https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kihon/shotoku/04/02.htm
まとめ
- 不動産経営を事業的規模で行うことにより、所得税の控除や経費に算入できる範囲の拡大など、さまざまなメリットがある。
- 事業的規模では、個人事業税の支払いが必要となり、その規模は都道府県によって異なる。
- 事業的規模の判定については、基本となる判断基準があるが、ケースによって慎重に判断する必要がある。
以上のことを踏まえて、事業的規模への拡大を考える場合は、疑問点や不明点は税理士など専門家に相談しながら検討することをおすすめします。