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賃貸物件の修繕要求に 大家はどこまで応えるべき?

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賃貸物件の修繕要求に 大家はどこまで応えるべき?

雨漏りや水漏れ、エアコンの不具合など、入居者から大家への修繕要求について、たいていの場合は応じるものと思います。しかし、もっとささいなことで修繕要求をしてくる入居者がいた場合、どうすればいいのでしょうか。この記事では、大家の修繕義務とはどのようなものか、また、どの程度まで修繕が必要かについて解説します。

1.大家に修繕義務があるのはどんな場合?

賃貸借契約では、大家は借り主に対して、賃借物を賃貸借の目的にかなった状態で使用および収益させる義務を負っています。
居住用マンションのような賃借物の場合には、借り主が安全で平穏に使用できることが当然の前提としてあります。建物の防犯対策や、共用部の廊下や階段の照明、郵便ポストなども、その対象となります。
民法第606条には、「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」と記載されています。この修繕義務が発生する要件としては、「修繕の必要性」、「修繕の可能性」の2つの要件を満たすことです。

≪修繕の必要性≫

修繕の必要性について、最高裁判所判例の中には、使用収益に著しい支障がある場合に限って、修繕義務の存在を認めている古い判例(昭和38年11月28日)もあります。
一方、下級審の判例は、そこまで厳格ではなく、「使用収益に支障があるか」を基準に必要性を判断しているものが多いようです。
具体例として、次のようなものが考えられます。

  • 借り主の負担で修繕するもの‥居室内の照明器具やカーテン、消耗品類など。
  • 大家の負担で修繕するもの‥壊れた部屋の鍵、ベランダの手すり、崩れ落ちた壁、雨漏りなど。

 例えば、壁紙が汚れているとか、少しはがれているなどといった場合には、「使用収益に支障を来さない」ため、特別な事情でもない限り、修繕の必要がないと言えます。

≪修繕の可能性≫

修繕の可能性については、物理的、技術的にだけではなく、経済的に可能かどうかも判断の基準となります。「経済的に修繕可能性がない」というのは、新築するのと変わらないほど修繕の費用が大きくなる場合と言えます。
「修繕可能性がない」と判断される場合には、賃貸借契約が履行不能となって、契約が終了するのが原則です。もし賃貸借が続くならば、修繕できないことを反映して賃料減額となるのが一般的でしょう。

2.大家の修繕義務はどこまで?どの程度?

修繕義務の範囲について見ていきましょう。
大家は、家屋の躯体部分(屋根、壁、柱、床など)、内装、設備など、自分が賃借人に提供しているものすべてについて、修繕義務を負います。
では、大家はどの程度の修繕義務を負うのでしょうか。
賃貸借契約は、大家の賃貸物件を使用収益させる義務と、入居者の賃料支払い義務が対価関係にある契約です。
上記の大家の義務を果たすためには、社会通念上、契約の趣旨に従った使用収益ができる程度にまで修繕を行う必要があると言えます。
例えば、築何十年も経った古い物件で、賃料も低額の場合でも、修繕義務がないということにはなりません。古い物件なりに、契約に従った使用収益させる必要があり、使用収益に支障を来すような不具合がある場合には、修繕の義務があります。
参考までに判例を挙げます。
東京地方裁判所の平成2年11月13日判決は、老朽化が進んでいる建物に対して、「賃貸人の修繕義務の存否及びその範囲・程度は、契約で定められた建物使用の目的、実際の使用方法・態様との関係で相対的に決せられるべきであり、修繕が可能であって、修繕をしなければ契約の目的に即した使用収益に著しい支障が生ずる場合に限って修繕義務があるというべきであるが、当該建物の経済的価値、賃料の額、修繕に要する費用の額等も考慮に入れて、契約当事者の公平という見地からの検討も加える必要がある」と述べているのですが、結果的に修繕義務を認めています。

3.借り主の故意過失が原因の場合は?

では、借り主の過失によって居室内の設備が壊れて、修繕が必要になった場合でも、大家は修繕義務を負うのでしょうか。
この場合、借り主は、大家の物、つまり他人の物を壊したことになるので、大家に対して、不法行為もしくは契約違反(目的物の使用方法に従って使用する義務違反)による損害賠償義務を負います。
したがって、大家には修繕義務があるが、借り主にも損害賠償義務があるため、大家が修繕して借り主に損害賠償すべきというのが、これまで主流の考え方でした。東京地方裁判所の平成28年3月8日の判決は、この説を採用しています。
もっとも現在では、このような場合に、そもそも大家は修繕義務を負わないと解釈する説も有力です。
国土交通省住宅局が作成した賃貸住宅標準契約書では、「乙(賃借人)の故意又は過失により必要となった修繕に要する費用は、乙が負担しなければならない」として、契約条項に、賃貸人が修繕義務を負わないことを明記することによって解決を図っています。
参考:国土交通省のホームページ
なお、この「賃貸住宅標準契約書」では、賃借人が修繕するべきもの(例えば、電球などの消耗品の交換など)が、「別表4」に記載されていて、参考になります。

4.修繕義務があるのに応じなかったら?

最後に、物件に不具合が生じて、大家に修繕義務があるにもかかわらず、修繕しなかった場合、借り主が取り得る行動について考えてみます。

1.大家に修繕費用を請求

借り主の側で修繕した場合、民法608条第1項により、必要費を大家に対して直ちに請求することができます。あるいは費用を賃料と相殺することも考えられます。
ここで、必要費とは、物件の使用収益をするために必要なもので、原状の保存もしくは回復のための費用です。改良のため(原状をよりよくするため)や、借り主の便宜のための費用は含みません。

2.賃料減額請求権

大家の修繕義務の債務不履行により、借り主には、不履行の度合いに応じた賃料減額請求権が発生するとされています。これは、民法611条(賃貸の目的物の一部が滅失した場合の賃料減額請求権)の類推適用として認められると解釈されています。

3.退去する

賃貸物件の供給過剰な地域では、借り主は退去を選択することもあり得ます。そして、退去する際に、修繕義務の債務不履行を原因として、引っ越し費用などを損害賠償請求されることも考えられます。

4.賃料の支払いを拒絶

賃貸借契約の性質上、大家が修繕しないことで使用収益に支障を来しているならば、借り主は賃料の一部または全額の支払いを拒絶することも考えられます。このような方法は、同時履行の抗弁権(民法533条)の適用もしくは類推適用によって可能と言われています。
ただし、支障があるにせよ、住み続けているのに賃料の全額を支払わない場合には、借り主の債務不履行として、大家の側が契約の解除を請求する理由となり得ます(そのためには、賃料の全額を3カ月間支払わないなど、「信頼関係の破壊」と見なされる行為が必要です)。
つまり、「使用収益に支障を来す割合に見合う程度」の一部支払い拒絶は可能だが、どのくらいの不具合で、どのくらいの割合まで賃料の支払いを拒絶できるかは、ケースバイケースなのです。
借り主の判断で過度に減額すると、債務不履行になる可能性もあるので、借り主としても、支払い拒絶は使いづらいのではないかと思います。

まとめ

  • 大家は、賃貸物の使用収益に必要な修繕をする義務を負い、それは「修繕の必要性」、「修繕の可能性」の2つの要件を満たす場合である。
  • 大家は、借り主に提供しているものすべてについて、修繕義務を負っている。
  • 賃貸借契約では、大家の賃貸物件を使用収益させる義務と、入居者の賃料支払い義務が対価関係にあるため、修繕は「使用収益ができる程度」まで行う必要がある。
  • 借り主の故意過失が原因の場合には、一般的に修繕費用は借り主の負担となる。
  • 大家に修繕義務があるのに修繕しなかった場合、借り主は、費用の請求のほか、退去や損害賠償、賃料の支払い拒絶や減額請求などをする場合も考えられる。

ポイントは、修繕が必要かどうかの判断基準は、「契約に従った使用収益に支障を来す限度」ということになります。この判断が難しい場合には、法律相談などで相談してみるべきでしょう。

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