不動産仲介業者は、賃貸物件の営業をする際に、仲介手数料という項目で家賃1カ月分の報酬を、借りる側もしくは貸す側から受け取ることができます。また、この仲介手数料とは別に、依頼者(貸主)から特別に広告の要請があった場合、その広告費などを併せて請求できる、と宅建業法に書かれています。
1.営業マンの案内頻度はADで変わる!?
ADって何だろう?と思った方もいらっしゃるかもしれません。不動産業界では、この広告費などの総称を広告料(AD)と呼びます。
1-1.営業ノルマとADの関係
仲介業者の営業マンには、ほとんどの場合、営業ノルマがあります。私の会社では、一人のお客様の案件につき、仲介料と広告料を併せて、できるだけ10万円に近い売り上げを出すように営業します。
例えば4万円の家賃の物件では、仲介料4万円(税別)+広告料1カ月分の4万円で約8万円となり、10万円に届きません。そこで、広告料2カ月分の8万円を出してもらえる物件があれば、そちらを優先的にお客様に紹介することになるでしょう。
営業マンは会社にもよりますが、一人当たりの1カ月の売り上げ100万円を目指して営業することが多いです。そうすると、客単価が10万円で10人のお客様との成約で達成できます。先ほどの2カ月分の広告料の物件では、売り上げが約12万円となり、客単価を確保できるというわけです。
1-2.ADの注目度は時期で異なる?
この1カ月のノルマがあることにより、営業マンにとって、広告料が一切出ない物件と、2カ月や3カ月分が出る物件とでは、案内の頻度が全く違うのです。
さらに、1月から3月にかけてはお客様の絶対数が多いので、客単価を気にしなくてもノルマは達成しやすくなりますが、4月から12月の閑散期においてはお客様の絶対数が少なくなり、繁忙期より客単価を意識した営業になることが多いです。
2.成約につながるADの有効性
ここでは、広告料(AD)を出すこと・増やすことがどのような効果をもたらすのか、説明したいと思います。
2-1.ADはどのように設定するか
まず、仲介業者の営業マンがオーナーに対して「広告料を3カ月分出して欲しいです」などと依頼することは禁止されています。なのでオーナーは、周辺の物件の状況を営業マンに確認しながら広告料を設定して、募集の際に会社のデータに入れてもらうよう指示します。
この広告料については、全く無い地域もあるので一概には言えませんが、例えば札幌などの供給過多の物件状況で、空室の目立つ地域に多いと言えます。
空室が多いとそれだけ競争が激しくなるので、営業マンにとっては広告料の多い物件を選びやすくなります。
2-2.空室が長引くよりもADが得策
オーナーは仲介業者に募集を依頼しなければ、空室を埋めるのはなかなか難しいのが現状です。なので、半年のあいだ空室になってしまうよりは、広告料を2カ月分出しても早めに入居者を見つけたいという考えの人が大半です。
あるいは、広告料を3カ月分出して、そのうちの1カ月分は前家賃(前払い分の家賃)に充当して入居者の特典とするオーナーもいます。そうすると入居者にとっては初期費用が安くなり、仲介業者の営業マンは狙った通りに広告料2カ月分と約10万円の客単価を維持できるので、嬉しい条件がそろいます。そして次回も、似たような条件のお客様が来店した際に、同じ内見ルートを回って、決めてもらう効果も期待できるのです。
2-3.トップ営業マンを動かすADのチカラ
どんなに物件に最新設備が完備され、きれいな状態であっても、広告料が無ければ、他の物件を紹介されてしまうことが多いのです。早く決めたいオーナーは、空室が出た際、すぐに最寄りまたは普段よく依頼する仲介店へ行き、自分の所有物件と同等の条件の物件について、家賃や設備状況、広告料などを確認して、最低でも同じような条件にして募集をかけることが多いです。
さらに、広告料の高い物件に関しては、優秀な営業マンを案内に引っ張る効果がとても高いです。なぜなら、仲介店のトップ営業マンは、案内する件数ももちろん多いですが、いかに単価の高い物件で成約数を伸ばすかを常に意識した営業をするからです。
そして高単価の物件で成約するために、その営業マン独自の内見ルートがあります。トップセールスマンの内見ルートに食い込むには、広告料を高く設定していることが必須条件になるかと思います。
3.ADを出す上で気をつけたいポイント
ここまで、ADのもたらす高い効果を見てきましたが、気をつけていただきたいこともあります。
3-1.大前提はメンテナンスと信頼関係
前回、営業マンと仲良くなる方法についてお話したように、何も広告料を高く設定するのが全てということでは、もちろんありません。物件の共用部分のメンテナンスや清掃、部屋がきれいな状態であることなどが、そもそも内見して成約につながるための基本条件となりますので、そこは絶対に怠らないで欲しいと思います。
また、義理堅い営業マンと末永く付き合っていれば、多少他の物件よりも広告料が少なかったとしても、「お世話になっている」という気持ちで決めてくれる場合もあります。
3-2.こんな営業マンには気をつけよう
広告料が高いことは成約に向けた非常に有用なツールではありますが、ひとつ注意したいことがあります。
例えば、広告料を2カ月分出しているとします。そのうち1カ月分を営業マン個人に欲しいと要求された時です。このような要求をしてくる営業マンがいたら、ご注意ください。オーナーに落ち度があるのではなく、営業マンの人間性に問題があるということです。
営業マンは会社に売り上げを計上して給料をもらう契約なのに、なぜオーナーが個人的に報酬を渡さなければならないのでしょう。会社によっては、解雇されてもおかしくありません。もしそのような要求をされたら、きっぱりと断りましょう。逆にオーナーから「個人的にお小遣いあげるよ」というのは、まともな営業マンからすると迷惑となります。個人的な報酬は全くしなくて良いという考えでOKです。
まとめ
率直に言って、広告料が高ければ高いほど目を引くのは確かですが、それだけで入居者が決まるわけではなく、あくまでも仲介業者との信頼関係をしっかり構築するのが重要です。
オーナー側も「広告料を高くすれば決まる」と思ってしまうと、オーナーばかりが損をすることになりかねません。空室が出た時には、急に高額な広告料を設定するよりも、まずは仲介店の営業マンと相談して、どのような募集条件にするか決めるようにしましょう。
私自身も、オーナーと仲介業者はできるだけ、持ちつ持たれつの関係で「Win-Win」でいたいと思いながら業務に取り組んでおります。