賃貸物件を所有していると、物件内で孤独死が起こることがあります。この場合、大家として、どのように対処すれば良いのでしょうか。また、原状回復や損害賠償の問題、契約を解除する方法なども知っておく必要があります。
そこで今回は、賃貸物件で孤独死が発生した場合に賃貸人が知っておきたいことを解説します。
1.契約関係はどうなるの?
孤独死が起こった場合、賃借人はいなくなってしまいます。すると、賃貸借契約はどうなるのでしょう。自動的に終了してしまうのでしょうか?
実は、賃借人が死亡しても、賃貸借契約は終了しません。このような場合、相続人が借主の地位を相続するので、相続人が賃借人となるのです。そこで、賃料は相続人に請求することができ、原状回復請求なども相続人に対して行うことになります。
また、賃貸借契約を締結している場合、連帯保証人をつけていることも多く、この場合には、家賃や原状回復費用を連帯保証人にも請求することが可能です。
2.契約を解除する方法は?
孤独死が起こって入居者が死亡しても、契約関係は自動的には終了しません。この場合、契約を解消するためには、相続人と話し合って、合意によって解約をする必要があります。
通常、孤独死をした入居者の相続人が賃貸借契約の継続を望むことはないでしょうから、合意による解約自体はさほど難しいことではありません。
問題となるのは、原状回復や損害賠償などの金銭的な補填についてです。
3.孤独死が起こった場合の原状回復費用は?
3-1.原状回復費用は連帯保証人、相続人に請求できる
孤独死が起こったら、原状回復費用をすみやかに請求することが重要です。死後しばらくしてから発見された場合には、部屋内に異臭が漂ったり汚れが発生したりすることが多いからです。原状回復費用は、相続人や連帯保証人に請求するので、話し合いによって支払いを受けることになります。
3-2.放置せず早めにクリーニングすることが大切
ただ、話し合いが長引くことも多いので、孤独死が起こった場合には、先行してクリーニングすることをおすすめします。
話し合いが決着するまで清掃をしないと、物件内に死臭や害虫が発生するなどの被害が大きくなり、近隣から苦情が出る恐れがあります。そうなると、物件の所有者である大家が周辺住民に損害賠償しなければならない可能性が生じ、また、変な噂が広まることによって、次の入居者を探しにくくなります。
よって、孤独死を発見して、遺体を処理したり清掃したりする際には、なるべく周囲に知られないように静かに行うことをおすすめします。
4.孤独死が起こったら、損害賠償請求はできるのか?
次に、孤独死が起こった場合に損害賠償請求が可能なのでしょうか。
この場合、基本的に損害賠償はできません。損害賠償請求が可能になるためには、行為者に故意や過失がある必要があります。孤独死の場合、通常、入居者に故意や過失は認められず、死亡したこと自体は不法行為にはなりません。よって、民法上の損害賠償義務が成立しないのです。
ただし、入居者が自殺した場合などには、故意、少なくとも過失が認められ、不法行為が成立します。その場合には相続人や連帯保証人に損害賠償請求が可能です。(※削除=損害賠償請求出来る場合には、)通常の原状回復の範囲を超えて、壁や床の総張り替え費用など、高額な費用の支払いを求めることのできる可能性があります。
5.家賃を減額したら、補填してもらえる?
物件内で孤独死が起こった場合、次の入居者に貸す際の賃料を下げることがあります。この家賃の減額分を、相続人や連帯保証人に請求できるのかも気になるところです。
これについても、損害賠償請求と同様の考え方になります。家賃減額分は、大家にとっての「損害」なので、相手に損害賠償義務があれば、支払いを求めることができます。反対に、賠償義務が発生しない場合には、家賃減額分の補填も請求することができません。
そこで、自殺などが起こった場合には、相続人や連帯保証人に対して家賃の減額分の補填を請求することができますが、単なる孤独死の場合には、請求は不可能です。
家賃の減額分を請求できる場合には、家賃1年分と半額の家賃2年分が金額の相場となります。
6.相続放棄された場合はどうなる?
相続人がいても、その相続人が相続放棄してしまう可能性があります。そうなると、相続人には一切の請求ができなくなるので、注意が必要です。相続放棄とは、一切の相続をしないための手続きです。賃貸人の地位も相続しないので、原状回復義務も損害賠償義務も相続しません。この場合、これらの費用は基本的に大家が負担しなければなりません。ただ、入居者(死亡した人)に他の財産がある場合には、裁判所の手続きを経て、その財産から支払いを受けられる可能性もあります。
7.次の入居者を募集する時に告知義務はある?
孤独死が起こって契約を終了し、クリーニングも済ませたら、新たに入居者を募集しますが、このとき、告知義務があるのかどうかも問題となります。
これについても、死亡理由が自殺か自然死かによって異なります。自殺の場合には、必ず入居者に事実を告知する義務があります。これに対し、自然死の場合には、告知義務がありません。
そこで、自然死の場合には、周囲に知られない限り、家賃を減額する必要もないのです。そのためにも、孤独を発見してから後始末をするまでの時間をなるべく短くし、目立たないようにすべての手続きを終えてしまうことが大切です。
8.大家が知っておきたいことまとめ
- 孤独死が起こったとき、相続人が契約を承継する
- 連帯保証人や相続人に原状回復請求できる
- 自然死の場合、損害賠償請求や家賃減額分の補填請求はできない
- 自然死の場合、新たな入居者に告知義務は無い
- 孤独死が起こった場合、早めに静かに片付けを終えてしまうことが重要
以上を参考にして、上手に孤独死に対処しましょう。