民法改正:設備の一部滅失による賃料減額について
令和2年4月に改正民法が施行されました。
この中の民法第611条第1項で以下のように規定されています。
「賃貸借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった割合に応じて、減額される。」
この改正は、収益物件を所有されるオーナー様にとっては非常に重要な法改正です。
変更の内容
改正前には「減額請求することができる」と定められていたにすぎませんでしたが、上記のとおり改正法では「減額される」と規定されました。これは、「義務的に」という意味になります。
すなわち、貸している建物が、借りている人の責任ではない事情で故障した場合には、その使用できない部分の割合で当然に賃料を安くしなければいけませんよ」ということですね。もちろん、借主さんの使い方が悪くて故障した場合には、この規定は適用されません。
では、条文上の「その使用及び収益をすることができなくなった割合に応じて」とは、どの程度の減額が義務付けられるのでしょうか。民法の中にはそこまでの詳細な規定はありませんが、基本的は賃貸借契約書の中に規定を設けておくべきであると考えます。
賃貸借契約書に賃料の減額について盛り込むのが賢明
この点に関する国土交通省のガイドラインでは、一部滅失の程度や減額割合については今までの判例などによっても、明確な基準があるわけではなく、争いを未然に防止する目的からも、一部滅失の場合は、借主が貸主にその旨を通知して、賃料についてはあらためて話し合い、適切な減額割合や減額期間、減額方法等を双方合意の上で決定することが望ましいという内容にとどめています。
どこかに参考となる減額の基準はないかと探してみますと、「公益社団法人日本賃貸住宅管理協会」が下記のような参考となる計算方法を示しています。
「トイレが使えない」減額割合30%(月額) 免責日数1日
「風呂が使えない」減額割合10%(月額)免責日数3日
「水が出ない」減額割合30%(月額)免責日数2日
「電気が使えない」減額割合30%(月額)免責日数2日
「テレビが使えない」減額割合10%(月額)免責日数3日
「ガスが使えない」減額割合10%(月額)免責日数3日
など規定しています。
たとえば、これを具体的な事例に即して、計算してみますと、
家賃が1か月10万円で、トイレが10日間使えなくなった場合は、
100,000円×30%=30,000円
これの10日ですと、30,000円×10日/30日の計算になりますが、免責日数がトイレの故障の場合は1日となっていますから、1日引いて
30,000円×9日/30日=9,000円となります。すなわち、その故障した月の家賃は、100,000円-9,000円(減額)=91,000円となります。
免責日数が設けられているのは、貸主は修繕の手配に取り掛かっても、瞬時に直るわけではないので、その分ぐらいは借主さんも我慢してくださいね、という意味合いでしょう。
こういったものを参考にあらかじめ賃貸契約書に「この場合にはこれだけの割合で減額します」といった内容を盛り込んでおかなければ、後で紛争になりますからそこは避けたいところです。
なお、裁判になった場合には「故障が借主に責任がなかったこと」を立証するのは借主の方です。この立証は実際には困難である場合が多いかと思いますが、裁判になりますと時間も費用もかかりますから、事前にある程度のケースに対応できる賃貸借契約書の様式を作成し、紛争を避けることが賢明な策といえるでしょう。
入居者の満足度の高い賃貸経営を目指そう
また、賃貸前に経年劣化により不具合が生じるであろうことがあらかじめ予測できるような場合、たとえば、エアコン、給湯器、水回りの設備などを点検し、交換しておくなどの対策も有効です。さらに、管理会社で緊急トラブル対応の体制が整っていれば、トラブルの際に即時対応ができるため、入居者の安心につながります。
設備や建物の修繕・交換を計画的に行い、入居者満足度を高めて長くお住みいただけるような賃貸管理を目指しましょう。