法律

不動産賃貸経営のための家族信託

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不動産賃貸経営のための家族信託

1.不動産賃貸経営と家族信託の具体例

家族信託を不動産の賃貸経営をされているオーナーさんにあてはめてみますと、不動産を数個所有し賃貸経営されているKさんが自己の認知症が心配になったので、賃貸経営の管理を引き継いでもらおうと考えたときに家族信託を知りました。

信託契約の内容としては、委託者Kさん所有の不動産を息子Yさんに対し、賃貸、管理、売却する権限を委託する、というものです。このような不動産の信託の場合は、所有権をYさんに移転し、信託の内容を登記します。

その際に発生する登録免許税(印紙代)は、所有権移転分は非課税です。信託の登記分は、土地が不動産評価額の1,000分の3、建物が不動産評価額の1,000分の4の税率になっています。

信託登記は難易度が高いので司法書士に依頼するのがよいです。その場合の報酬は事務所により異なりますが、だいたい10万前後かと思います。

2.家族信託のメリット

(1)認知症になっても財産管理が滞らない

家族信託の最大のメリットは、認知症になった時に備えて元気なうちに子などにその財産の運用を承継してもらうことができる点にあります。

そうすることで、認知症になった場合でも、入退去や家賃管理などのオーナー業務も滞らず、トラブルも避けることができます。

(2)柔軟な財産運用を委託できる

相続税対策や財産の運用をする中で現在の財産を売却し、新しい財産に買い替えることで利回りが良くなると判断すれば受託者の権限において、受益者のために実行することができます。

この点において、同じ財産管理を目的とする制度でも、今ある財産を守るという点を重視する成年後見制度との大きな違いがあります。

(3)委託者の思い通りの財産承継が可能になる

家族信託のメリットとしてはほかに、2次相続にも対応できるというところにあります。

通常遺言などで財産の承継者を定める場合には、たとえば自分の子供を指定するところまでしかできませんが、信託ではその承継者が亡くなった後には孫にといった形の2代以降の先の承継者も指定することができます。

(4)受託者の資力に影響を受けない

また、仮に受託者が自分自身の借金を作ってしまった場合でも、信託財産は受託者の固有財産とは隔離されますので、受託者固有の債権者はたとえ受託者名義になっていても信託財産となっている不動産を差し押さえることができないという安心感もあります。

3.家族信託のデメリット

(1)財産管理以外の身上監護の問題

このように、家族信託は成年後見に比べ本人の財産に対して柔軟に対応できる点が魅力といえます。

ただ、デメリットもあります。成年後見とは違い包括的な事柄を代理できるわけではないので、介護が必要になった場合の契約や施設入所の契約などは成年後見でなければ対応できない部分ではあります。

(2)家族間のトラブルに注意する必要がある

また、家族信託をするうえで大事なことは、まず信頼できる親族がいることでしょう。

運用処分権限を委託するのですから、受益者が自分の利益のために動くような人では安心して頼めません。したがって、信託をすることにより親族間トラブルに発展しないかを十分考慮する必要があります。

(3)遺留分への影響

さらに遺留分の問題があります。遺留分というのは「法定相続人に最低限保証された相続分」のことです。たとえば遺言で「すべての財産を長男に相続させる」という内容の遺言をしたとしても、配偶者や他の子供には「総財産×2分の1×法定相続分」の遺留分がありますから、それを侵害している場合にはその長男に対して「私の遺留分に相当する財産は返してください」と請求していくことができます。

家族信託の契約内容いかんによっては他の相続人の遺留分を侵害する恐れがあるため、契約時には弁護士や司法書士などの専門家と十分相談し、その部分も検討しておかなければのちに相続人間のトラブルに発展することになります。

(4)税務申告が複雑になる

税金面においては、委託者と受益者が別の人物である場合には贈与税が発生することもあり、また収益に対する税対策も複雑になるため、税理士との顧問契約を結ぶなど密に連携が取れる状態にしておく必要があります。

(5)受託者の負担が大きい

受託者は、財産や収益を管理したり、委託者に状況を報告したりまた税理士との打ち合わせなど多くの役目を長期間にわたって行うことになるため負担は大きいです。

(6)家族信託に精通した専門家が少ない

このようにいろいろ複雑であることも原因となり、家族信託について専門に扱っている専門家はまだまだ少ないのが現状です。

 

4.まとめ

このように不動産賃貸経営をされているオーナーさんにとって家族信託にはメリットが多いのですが、反面注意しておかなければならないこともあるため、信託契約の内容を考える際には専門家に相談しながら、家族信託のメリットが最大限活かせる内容の信託契約にしていく必要があります。

最初に安心できる家族信託が設定できれば、後の不動産賃貸経営が安泰なものとなるため、オーナーさんにおかれましては、一度検討されてはいかがかと思います。

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