所有する物件を誰かに賃貸するときは、賃借人が家賃を滞納したときに備えて、保証人もしくは保証会社をつけてもらうのが一般的です。
シリーズ「民法改正で不動産賃貸業はこう変わる」の第3回目は、改正民法により、賃貸人(大家)から保証人に対して、賃借人(借主)に関する情報提供義務が発生することについて解説します。
1.家賃の支払い状況は保証人の関心事
借主が心身ともに健康で、仕事も順風満帆であれば、家賃を滞納される心配はあまりないでしょう。しかし、けがや病気で働けなくなったり、不況のあおりを受けてリストラされたりしたら、家賃が支払えなくなってしまう心配が出てきます。
保証人にとって、借主の家賃の支払い状況は最大の関心事です。なぜなら、借主が家賃を滞納すれば、保証人が滞納分を肩代わりしなければならないからです。
しかし、個人情報保護法が成立・施行されて以来、借主の家賃の支払い状況は個人情報とみなされ、大家は原則として借主の同意を得なければ情報を開示できなくなってしまいました。
そのため保証人は、借主がきちんと家賃を支払っているかどうかを確認したくても、個人情報保護法の壁に阻まれて、なかなか情報を得ることができなかったのです。
2.保証人への情報提供が法律で義務化
今回改正される民法では、保証人保護の観点から、大家が保証人に家賃の滞納状況について情報提供できる法的根拠が示されました。
「保証人から請求があれば、賃貸人は遅滞なく家賃の履行状況や滞納金額等を伝えなければならない」(458条の2)
と条文の中に明記されたのです。これにより大家は保証人に対して、個人情報保護法に関係なく、家賃の支払い状況についての情報提供ができるようになります。
この規定は、個人の保証人のみならず、保証会社など法人の保証人も対象となることが大きな特徴です。法人の保証人から、借主に関する問い合わせがあったときには、大家はこの規定を根拠として回答することが可能になりました。
近年では、個人情報保護法の内容が一般に認知されるようになり、他者に関する情報の開示請求をしても、個人情報保護を理由に、本人の同意がない限り開示されなくなってきています。
今回民法の規定が改正されて、個人情報保護法の規定に関係なく、賃貸人から保証人に対して賃借人に関する情報を提供できるようになったことは、非常に有益だと言えるのではないでしょうか。
3.大家が情報提供を怠るとどうなる?
ここで、もし大家が保証人に対して重要な情報を提供しなければ、何らかの形で罰せられることになるのでしょうか。
大家から保証人への情報提供が法律で義務となったものの、その義務に違反した場合の明確な罰則規定はありません。そのため、罰金や過料が課せられたり、懲役刑になったりする可能性は、まずないと言ってもよいでしょう。
しかし、
「大家が速やかに保証人に連絡をしていれば、当時の借主にはまだ資力があったので、保証人から家賃を支払うよう強く言うこともできた」
「借主が夜逃げをして音信不通になってしまったので、いまさら連絡をもらってもどうしようもない」
といったケースについて考えてみましょう。
上記のように、大家が保証人への情報提供を怠った結果、保証人が借主の代わりに家賃を支払わなければならなくなったとします。
この場合、大家は保証人から損害賠償請求をされることがあります。さらに、大家から保証人に対する保証債務履行請求が認められなくなる可能性もゼロではありません。
したがって、大家は保証人への情報提供義務を怠らないよう、常に努力をする必要があると言えるでしょう。
まとめ
- これまでは、保証人が借主の家賃支払い状況を確認したくても、個人情報保護法のためにできなかった。
- 民法改正により、個人情報保護法の規定よりも優先される「賃貸人の保証人に対する情報提供義務」が明文化。大家が保証人へ借主の情報提供をする際の法的根拠ができた。
- 注意したいのは、大家が保証人への情報提供義務を怠った結果、保証人に不利益が生じた場合である。損害賠償請求される可能性に加え、大家の保証債務履行請求が認められない可能性も高まる。
大家の保証人に対する情報提供義務が明文化されたことにより、保証人が保護されるようになった一方、借主には少々厳しい条件が突きつけられたと言えるでしょう。
大家の立場である皆さまは、保証人から借主に対する問い合わせがあれば、手間を惜しまず速やかに対応するのが得策だと思います。