大家の損害とリスク回避について
自分の物件で孤独死が起こった場合、大家はどのように対応すればよいのでしょうか。前編では、次の入居者募集時にそれを告知する義務があるのかについて見てきました。後編では、孤独死が起こった場合に発生する大家の損害や、孤独死に備えてあらかじめできることを考えます。
1. 孤独死が生じた場合の大家の損害
所有物件で孤独死が起きて、それを告知して入居募集をする場合、従来の条件とは少し変わってくるかと思います。
この物件で孤独死があった、まして、遺体が腐乱していたと知れば、それでも同じ条件で借りたいという人はなかなかいないでしょう。家賃を相場より下げて募集するか、最悪の場合は、しばらく空室が続くことも考えられます。
しかし、孤独死は自殺と異なり、本人の過失ではないため、物件の価値や家賃の下落、空室損害について、遺族などに損害賠償請求することは基本的にはできません。したがって、損失分は大家が負担することになります。
なお、賃借人には原状回復義務があるため、特殊清掃の費用などは義務の範囲内で請求できるとされた判例があります(東京地方裁判所の昭和58年6月27日判決)。
2.費用対効果の視点で「告知」を選ぶ
では、孤独死が起こって、それを入居募集時に告知せずに、入居者が決まったとします。
入居者が住み始めて、近所づきあいをすれば、孤独死の話などは隠していてもすぐに知ることになるでしょう。オーナー自身は、心理的瑕疵(かし)※には当たらないと考えて告知しなかったとしても、その後、孤独死のことを知った入居者が心理的瑕疵を主張して、損害賠償請求をしてくることも考えられます。
裁判所がこれを認めるかどうかは、もちろん事案によります。しかし、もし裁判になれば、それだけで労力を使い、弁護士への相談や依頼に費用が生じる場合もあります。
そして、仮に告知義務違反と判断されて損害賠償を支払うことになれば、出費は多額になり、損害賠償金は保険では補てんできません。
あるいは、孤独死の事実を知った入居者が、裁判などは起こさず、それを理由に短期間で退去してしまったとします。その場合でも、大家にはハウスクリーニングの費用や、次の入居者募集の費用、空室損害などが発生してしまいます。
こういった場合を考えると、孤独死が起こった直後は、それを告知して入居者募集をした方が、リスクを回避するためには賢明といえます。
※=入居物件で過去に自殺や事故が起きた場合など、相手の気持ちに影響を及ぼすような欠陥。詳しくは前編を参照。
3. 大家として孤独死に備える
ここまで見てくると、所有物件で孤独死が起こることを未然に防ぐ、あるいは万が一起きてしまった場合に備えることが重要です。いくつかのご提案をしたいと思います。
3-1.入居者の状況に気を配る
大家としてリスク回避を考えるならば、日ごろから入居者の方々と仲良くなって情報収集するなど、入居者の状況に気を配ることが大切でしょう。万が一、孤独死が起こってしまった場合にも、いち早く発見することが大事な対応です。
3-2.自己判断せず法律相談を
万が一、孤独死が発生した場合は、次の入居者募集の前に法律相談をして、告知義務の有無を確かめることをおすすめします。無料の法律相談でも良いと思います。
裁判所は、裁判の事案に対してのみ判断するものです。似たような事案の判例は参考にはなりますが、自分の物件で起こった孤独死のケースにぴたりと当てはまることはありません。自己判断せず専門家の意見を聞きましょう。
3-3.保険を利用したリスク回避
最近は、所有物件で孤独死や自殺、犯罪死が起きた場合に備える保険もあります。特に孤独死に対応する保険は増加傾向にあり、特殊清掃の費用や一定期間の家賃などを補償してくれます。火災保険の特約としてプラスできるタイプもあります。
保険によって家賃の減額分を補てんできるならば、その後半年程度は家賃を下げ、7カ月目以降は通常に戻すなど、特殊な条件で募集することも考えやすくなります。どの程度の補償があるかは、あらかじめ保険会社に確認しておきましょう。
まとめ
- 孤独死を告知して入居募集する場合、家賃の減額など条件を変えるのが一般的。
- 後で、入居者が心理的瑕疵を主張して裁判を起こしたり、退去したりすることを考えると、告知するのが得策といえる。
- 孤独死が起こらぬよう、起きた場合もすぐに対処できるよう、備えておくことが大切。
- 告知義務の有無については、自己判断せず法律相談で確認するのがよい。
- 孤独死が起こった場合の特殊清掃費や家賃の減額分などを補償する保険もある。
高齢化社会の加速により、孤独死はどの物件でも起こり得ることです。大家として日ごろから備えておき、万が一起きた場合には、専門家に相談して、その後の対応を考えましょう。