入居者から突然、賃料減額を請求されたら、大家としてどのように対応すればいいのでしょうか。
この記事では、まず賃料減額請求についての基礎知識を紹介し、それをもとに、大家さんの経営判断に役立つ考え方を紹介します。
1.減額請求の法的な流れと考え方
入居者から賃料減額を請求され、それを大家が拒否したら、入居者は法的な手続きによって賃料減額を求める可能性があります。なので、どのような場合に請求が法的に認められるのかという判断基準と、法的な手続きの流れについて、あらかじめ知っておく必要があります。
1-1.賃料減額が認められる基準とは?
賃料の減額請求は、前回の賃料の合意の後に、経済状況など諸般の事情に変更があり、周辺相場と比べて賃料が不相当になったなどの場合に認められます。
基本的には、大家と入居者が、合意して決めた賃料が尊重されます。しかし、合意から時間が経って、経済状況や当事者の事情などに変動があり、合意した賃料が周辺の賃料相場から考えても不相当だと判断されるような場合に、賃料の減額が認められます。
1-2.法的な減額請求の基本ステップ
入居者が法的な手続きで減額請求をする場合、基本的には次のような流れとなります。
1.調停前置主義
大家と入居者との間の問題は、話し合いによって解決されることが望ましいので、入居者は訴訟の前に調停を申し立てる必要があります。
2.訴訟提起
調停で話し合いがまとまらなければ、入居者から訴訟提起されることになります。
3.鑑定
その物件では、どのくらいの賃料が相当か、不動産鑑定士に鑑定してもらう必要があります。
補足:紛争中の賃料と清算
調停、訴訟中に入居者が家賃を払わなくなった場合、それは契約の不履行となるので、3カ月以上滞納が続けば、賃貸借契約を解除することができます。
一方、入居者が大家から請求される額(だいたいは従前どおりの金額)の賃料を払い続けていて、最終的に訴訟で減額が認められた場合、大家は、入居者が減額請求してきた日以降は、家賃をもらいすぎていたと判断され、差額に年1割の利息を付けて返還しなければなりません。
2.減額に応じるかどうかは大家の経営判断
前章では、減額請求の法的な流れを見てきました。それを踏まえて、入居者から減額請求があった場合、応じるべきかどうかを考えてみましょう。
2-1.費用対効果から応じた方が得な場合も
賃料減額請求を拒否した場合に、入居者が取るであろう行動は2通りあります。1つ目は退去すること、2つ目は上記のように、調停、訴訟という方法を取ることです。
減額請求を拒否して、その入居者が退去した後、何カ月も空室になり、結局、賃料を下げて入居者募集を余儀なくされたら、最初から賃料減額に応じればよかったということになります。
なので、自分の物件の競争力や、新たな入居者募集の際の家賃相場などをしっかり把握し、退去されても問題はないのか考える必要があります。
一方、入居者が調停、訴訟を選んだ場合には、大家にもこれに対応するための費用が発生します。調停は、自分で裁判所に行って話し合いができますが、訴訟対応は弁護士に依頼しなければ難しいため、その費用が発生します。
また、不動産鑑定士による鑑定が必要となれば、鑑定費用として数十万円の出費となります。
こういった費用対効果を考えると、月数千円程度であれば、減額に応じた方がよい場合もあります。
2-2.安易な減額は他の入居者への影響も
とはいえ、減額請求に安易に応じてしまうと、また別の問題が生まれます。
入居者同士は、いわば、ご近所さんです。一人の減額に応じたことにより、頼めば賃料を減額してもらえるという噂が広まると、他の入居者からも次々と減額請求される可能性もあります。
このような事態が想定される場合には、退去もしくは訴訟対応で損失が出ることが分かっていても、減額請求を拒否した方がよいという判断もあり得ます。
そうすることで他の入居者にも、その物件では、訴訟までしなければ賃料減額はできないのだという認識が広まり、連鎖的な賃料減額は避けることができます。
このあたりは、大家さんと入居者との普段の交流や、信頼関係、入居者同士の横のつながり、そもそも、賃料が周りと比べて不相当なのかどうかなど、自分の物件の状況をしっかり考えて判断する必要があります。
3.賃料増額を請求する時のステップ
次に、大家側が入居者に対して賃料を増額したい場合は、どのようなプロセスが必要となるのでしょうか。
3-1.増額が認められる基準とは?
賃料を増額できる基準も、減額の時と同じで、前回の合意の後に経済状況の変動など、事情の変更があって、今の賃料では、周辺の賃料相場と比べて不相当であるなどの理由が必要です。
3-2.増額を請求するプロセス
賃料を増額するプロセスも、基本的には、減額を請求する時と同じです(1-2参照)。この場合は、賃料増額を請求する大家の側が、不動産鑑定士による鑑定書などを積極的に取得して、経済状況の変動や、賃料が不相当になったという事情を証明していかなければなりません。
補足:紛争中の家賃と清算
この場合には、入居者の側が、自分が相当だと思う賃料(だいたいは従前どおりの賃料)を払い続けていれば、契約の不履行にはなりません。ただし、最終的に裁判で増額が認められたら、入居者は、不足額に年1割の利息を付けて清算します。
3-3.大家としての経営判断が重要
賃料が増額されるくらいなら、退去しようと考える入居者もいるかもしれません。なので、賃料増額請求をするに当たっては、拒否されて退去されても、自分が希望する賃料で新しい入居者の獲得が見込めるかどうかをよく見極める必要があります。
まとめ
大家さんは経営者です。紛争が起こった場合には、自分の言い分が通る見込み、相手の言い分が通る見込みをしっかり調べるとともに、費用対効果も踏まえて、対応を考えていきましょう。自己判断だけに頼らず、弁護士や不動産鑑定士に相談することも必要だと思います。