賃貸物件では、改装や修繕を行うことがあります。大家は物件の所有者なので、改装や修繕ができるのは当然ですが、中には借り主が勝手に物件をリフォームしてしまうことがあります。こうした場合、借り主に元の状態に戻してもらうことは可能なのでしょうか。
今回は、借り主が勝手にリフォームした場合、大家は原状回復費用を請求できるのかについて、解説します。
1.借り主は原状回復義務を負う
借り主が勝手にリフォームをすることがありますが、それに加えて「修繕したのだから、むしろ費用を支払ってほしい」などと要求してくることもあり、そうなると問題は深刻です。
まず、賃貸借契約における賃借人(借り主)は、契約終了時に「原状回復義務」を負います(民法598条、616条)。原状回復義務とは、契約終了時において、物件に付属させたものを収去して、元に戻して返還をしなければならないという義務です。
例えば、勝手に家具やエアコンを取り付けた場合や、床、壁などを破損した場合、大家は借り主に対し、元に戻して退去するよう請求ができます。
そこで、借り主がリフォームによって変更を加えた場合、契約終了時において、その部分を元に戻して返還しなければなりません。
2.特約がある場合はリフォーム可能
賃貸借契約において、借り主がリフォームできると定めているケースがあります。
例えば、小規模な修繕については借り主が自己負担で施すことができ、大規模な修繕や改装の場合には、大家の承諾を必要とする旨を定めている場合などです。
また、田舎の空き家など、リフォームを前提とする賃貸借契約では、借り主に自由なリフォームを認めると同時に、原状回復義務を免除することも多いです。
このように借り主がリフォームできるという特約が付いている場合、大家は借り主に原状回復請求することはできません。
ただし、特約がある場合でも、そこで認められる範囲のリフォームのみが対象です。
小規模な修繕は特約によって借り主の負担としていても、大規模な修繕や改装については大家が行うと定めるケースが通常は多いです。また、借り主がリフォームする際に、大家の許可を必要と定めることも一般的です。よって、特約に定める範囲を超えて借り主が勝手にリフォームした場合には、やはり原状回復を請求することができます。
3.大家の負担となる「必要費」って?
ところで賃貸借契約において、借り主は大家に対し「必要費」の返還を請求できると定められています。そこで、借り主がリフォームした場合、「これは必要費だから、リフォーム費用を支払ってほしい」と主張することがあります。
「必要費」とは具体的にどのようなものを指すのでしょうか。
これは、物件に手を加えないと、通常の利用にも支障をきたす時に行う修繕費用のことです。通常、大家は借り主に対し、物件を利用できる状態にして提供する義務があります。ただし、その義務を果たさない場合には、借り主が最低限利用できる状態に整えて、その費用を大家に請求することができるのです。
これに対し、本来住める状態の物件に対し、借り主が勝手にリフォームで手を加えた場合は「必要費」には該当しません。借り主がリフォームをした上、その費用を請求してきたとしても、大家が支払いに応じる必要はありません。
4.リフォームの範囲と負担を明確に
以上のように、賃貸借契約では、リフォームは基本的に大家の負担と判断で行います。
ただ、ケースによっては、借り主がリフォームをした方が適当なこともあります。大事なのは、そういったことを当初から定めておき、トラブルを防止することです。
したがって、賃貸借契約においては、リフォームの範囲と負担義務者をあらかじめ定めておくことが望ましいです。
すべてのリフォームを禁止すると、契約終了時に原状回復されますが、その後、大家が自己判断でリフォームする必要が生じるでしょう。借り主にある程度の裁量を認めて良いのであれば、大家の承諾があればリフォームできる、と定めるのも良いでしょう。
借り主にリフォームの権限を認める場合、原状回復義務を残すかどうかも問題になります。物件価値を高めるリフォームなら、原状回復させない方が、大家にも借り主にも得になるケースがあります。両者の利点を見極めて検討しましょう。
まとめ
- 借り主が勝手にリフォームしたら、大家は借り主に原状回復請求ができる。
- リフォームに関して特約がある場合、借り主は特約の範囲でリフォームができる。この場合、借り主の原状回復義務を免除することもできる。
- 賃貸借契約を締結する場合、リフォームの範囲と負担者、原状回復義務について定めておくと、トラブル防止につながる。
- 今回の記事を参考にして、リフォームに関するトラブルを上手に回避しましょう。