賃貸経営において、大家さんが最も苦労するのは家賃滞納トラブルではないでしょうか。家賃滞納問題は、解決までに時間がかかるだけでなく、滞納者が金銭や健康面などでさまざまな事情を抱えていることも多いので、大家さんの努力だけでは解決できない厄介な問題になりがちです。
この問題の解決に時間がかかるのは、入居者が弱者保護という観点から法律によって守られているからなのです。金融庁のガイドラインでは、貸金業規制法の第21条「取立行為の規制」という項目にて、「人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動」を禁止しています。つまり、大家としては普通の滞納督促のつもりが違法行為となってしまうこともあるのです。入居者の中には、弱者である立場を利用して損害賠償等の請求をする人も出てきます。そうなれば、かえってトラブルが大きくなってしまいます。大家さんは、事務的かつ冷静に対応することが必要なのです。
では、どのような家賃督促・回収の行為が問題になる可能性が高いのか、見ていきましょう。
1.張り紙などで、家賃などの滞納の事実を公にすること
張り紙などを部屋のドアに張ると、その部屋の入居者以外の第三者に、家賃滞納の事実をさらすことになります。家賃の滞納は、大家さんと入居者の間の問題なので、プライバシー保護の観点からも問題行為となってしまいます。
2.午後9時以降午前8時までの時間帯に督促のため電話・訪問する事
滞納者と連絡を取りたい場合、勤務から帰宅しているであろう時間帯に訪問することや電話で連絡を取ることがあると思います。しかし、いわゆる深夜の時間帯になると規制の対象となってしまいます。貸金業法では、「正当な理由なく不適当な時間帯に督促をすること」を禁止しています。FAXやメールなどを送信することも注意が必要です。
3.督促のための訪問で同意のない長時間の居座り、長電話
督促のために入居者を訪問した際に、入居者から「帰ってください」などと言われ、その場所から退去するよう要請された場合、大家さんはすぐに従わなければなりません。また、督促の電話を相手が切ろうとすることを許さず、長引かせることも禁止されています。
4.正当な理由なしに借主の居宅以外の場所に連絡・訪問すること
家賃滞納者の勤務先や親元、友人宅などへ督促のために電話や訪問をすることは禁止されています。ただし、「正当な理由なしに」とあるので、以下の理由であれば認められる場合もあると考えられます。
・連絡先が居宅以外になっている場合
・どうしても連絡がつかない場合
・連絡先が不明でそれを確認する目的による場合
5.連帯保証人ではない親族などに対し滞納家賃の弁済を要求すること
親族であっても連帯保証人でなければ支払い義務がないので、督促のために電話、訪問、督促状を送付することは禁止されています。
6.借主が支払いを拒否しているにもかかわらず、引き続き督促を行うこと
滞納者が支払いを拒否している場合、家賃債務の存在そのものを争っているとみなされることがあります。争っている場合は、弁護士以外の者が督促を行うことは弁護士法で禁止されている「弁護士以外の者が報酬を得て法律事務を行うこと」に該当する恐れがあります。
7.家賃滞納者の物件の鍵の交換、借主の家財道具などを勝手に搬出処分すること
滞納者と連絡が取れず、訪問しても居留守などで接触できないときに、大家さんが勝手に鍵を交換して出入りできなくする行為も禁止です。また、滞納者物件内の所有物を無断で捨ててしまうなども禁止されています。そのような行為は、裁判所等の公権力を借りずに強制力を行使することを禁ずる「自力救済禁止の法則」に抵触すると考えられます。
8. 第三者に依頼して督促・回収させること
正当な代理人でない者や仲介不動産会社など、第三者に依頼して督促・回収させる行為は違法になる場合があるので、法律の専門家に事前に相談しましょう。
まとめ
以上のように、普通の滞納督促だと思っていた行為が違法となり、かえってトラブルを招くことがあります。そうならないためには、正しい知識を持って毅然とした態度で滞納督促を行い、不安な場合には専門家に相談するなどして、次の対策に進みましょう。