法律

賃貸借契約前にキャンセルが発生 損害賠償請求は認められるのか?

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賃貸契約前キャンセル

賃貸アパートやマンションなどを経営していると、入居予定者が突然、契約をキャンセルしたいと言い出すことがあります。実際に契約をしていたら勝手なキャンセルは認められませんが、契約前ならば自由にキャンセルすることはできるのでしょうか?
借主の希望によって備品設備などを用意していた場合に、それらの損害賠償請求ができるのかどうかも気になるところです。そこで今回は、賃貸借契約前に賃借人希望者の都合でキャンセルされた場合、損害賠償請求をできるのかについて、解説します。

1.賃貸借契約は、いつ成立するの?

入居者が決まり、受け入れの準備を進めている時、入居者の都合で一方的にキャンセルされることがあります。この場合、キャンセルは有効なのでしょうか? すでに賃貸借契約が成立しているなら、キャンセルはできないはずなので、賃貸借契約がいつの時点で成立するのか、ということが問題となります。
賃貸借契約自体は、「口頭」によって成立すると考えられています。そうなると、口約束で「入居する」と決めて賃料などの条件も話し合った以上、その後、一方的にキャンセルすることは認められないとも思えます。
しかし実際には、契約書がないと契約の成立を証明することは難しいのです。口約束で賃貸借契約の合意ができているとしても、入居者が「そんな約束はしていない」と主張すると、大家としては契約の成立を証明する方法がないためです。
つまり、正式に賃貸借契約書を作成する前の段階では、契約の成立を前提として相手を拘束することができません。入居者によるキャンセルそのものを阻止することはできないのです。
賃貸借契約の成立時期は、理屈としては口頭で合意をした時点ですが、現実的には賃貸借契約書を作成しないと、それを前提にした主張は難しいということです。

2.賃貸借契約前のキャンセルは、信義則違反になる!

それでは、契約前に相手がキャンセルした場合、大家が苦情を述べることは一切できないのでしょうか?
大家が入居者受け入れのためにすでに費用をかけている場合などもあり、この場合、入居者の行為が「信義則違反」と評価される可能性があります。信義則とは、契約関係や契約関係に入ろうとしている人が相互に信義誠実に行動しなければいけないという原則のことです。すでに契約締結交渉に入っている以上、お互い相手に迷惑をかけないように行動しなければならない、という意味です。
よって、賃貸借契約書の作成前であっても、大家や賃借人はお互いに相手に迷惑をかける行動をしてはなりません。正当な理由なしに一方的に契約をキャンセルすることは、信義則違反になるのです。
相手に信義則違反の行動をされたら、損害賠償請求をすることも可能になります。

3.損害賠償請求ができるケースとは?

それでは、賃貸借契約の締結前に相手から一方的にキャンセルされた場合、損害賠償請求をできるのは、具体的にどのようなケースなのでしょうか?
どのようなケースでも賠償義務が発生するわけではありません。キャンセルに「正当な事由」があると、信義則違反にならないためです。そこで、問題となるのは「正当な事由」があるかどうかです。
正当事由の有無については、契約締結交渉の進み具合や、交渉にかかった期間、借主側がキャンセルをした事情、大家側が受ける不利益の程度などを総合的に評価して決定します。
交渉に長期間かかった場合や、あとは契約書に調印するだけの段階まで契約条件が決まっており、大家が受け入れの準備を進めていた場合、また、借主側が「気が変わっただけ」などの理由でキャンセルを希望した場合などには、正当事由は認められにくくなります。その場合、相手に無理を強いて賃貸借契約を締結させることはできませんが、損害賠償請求をすることが可能になります。

4.損害賠償を請求できる範囲

それでは、相手に損害賠償請求ができる場合、どの程度の範囲で賠償をしてもらえるのでしょうか。これについては、「信頼利益」の範囲内と考えられています。信頼利益とは、契約が締結されることを信頼したために発生した損害のことです。これに対する言葉が履行利益です。履行利益は、契約が締結されていたら得られたはずの利益のことです。
契約締結前の損害賠償の範囲は信頼利益の範囲内なので、たとえば相手に「契約が締結されたら得られたはずの家賃」などを請求することはできません。支払ってもらえるのは、借り主の希望によって設置した備品や設備など、借り主を受け入れる準備にかかった費用です。

5.損害賠償請求しないという選択もある!

賃貸借契約前にキャンセルされた場合、現実には損害賠償請求をしない人も多いです。なぜなら、賠償請求をすると不動産業者を巻き込むことになり、仲介業者からの評判が悪くなってしまい、次の入居者を探しにくくなるからです。
そこで、よほどのことがない限り、気持ちを切り替えて次の入居者を探す方が得な場合が多いです。このことも、覚えておきましょう。

今回の覚えておきたいこと・まとめ

賃貸借契約前に入居予定者が一方的にキャンセルした場合、大家として覚えておきたいのは以下のとおりです。

  • 賃貸借契約は成立していない。
  • 契約成立前でも、相手による一方的なキャンセルは信義則違反になる。
  • 相手のキャンセルに正当事由がなければ、損害賠償請求ができる。
  • 損害賠償請求ができる範囲は、「契約が成立することを信頼したことによる利益」に限られる。
  • 実際には損害賠償請求しない方が良いこともある。

以上のように、入居予定者が一方的にキャンセルした場合、最終的にどうすれば得になるのかよく考えて対処すべきです。今回の記事を参考にして、賢い選択をしましょう。

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